ルーク好きの知人がお勧めしていたので、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を買って読みました。スパークの帰りの待ち時間に読み始めて、最初はノロノロペースだったんですが、1部が終わるあたりで加速。二日連続で午前2時まで読んでしまいました……眠たい。
最後になってくると、ちょっとまて……と嫌な予感。ああ、こう最初に繋がるのか、ともう一度最初の数Pを読み返しました。うーん、ハッピーエンドじゃないんだけど、主人公は満足してるしその周りも満足している。
でも、"人間"から見ると歪んだハッピーエンドです。少なくともこの物語を読んでいて深く考えさせられることはあっても、感動はしませんでした。
以下、ネタバレとそれに絡めたルーク話ですがご容赦を
【あらすじ】
臓器提供用に造られたクローン人間たちは16歳まで育てられ、18歳以上になると何回かの臓器提供を経て人生が"終了"する。主人公らはクローン人間の扱いに異議を唱えた人々によって運営されていた寄宿学校風の施設で子ども時代を過ごし、幸せであった。しかし将来は他のクローン人間と同じく、臓器提供の道以外は用意されていない。選ばれた恋人たちは愛を証明できれば提供開始まで数年の猶予が許される、という噂があり、主人公らは望みを託すが、実際には存在しなかった。一人、一人と提供を終えて"終了"していき、長年、クローン人間の介護を務めた主人公も最後は提供への道を選ぶ。これは、彼女も遠く無い未来、他のクローン人間と同じく人生が"終了"することが示唆されている。
上は割とSF視点での切り口です。本編では多く語られることは無く、主人公らの思いや男女関係がメインなんで、途中からはセックスセックス!ばっかりです。「新世界より」もそうだけど、ある程度はぼかしてくれないかなあ。人に勧めにくい。
そこはともかくとして、主人公らは普通の子どもと同じように教育を受け、それでも待っている未来は臓器提供しかありません。選択肢は全く用意されてませんし、そのまま物語は終わります。極端に制限された人生の中で、恋をしたり喧嘩したり別れたりして思春期を過ごし、終わりの見える人生に充実感を見出して死んでいく。いわゆる普通の"人間"の体験にスライドして共感することはできるかもしれませんが、私は共感できませんでしたし、むしろ気味の悪い世界だと感じます。
一般的に、私たちが言う制限された、思い通りにならない人生ってほぼ人為的なものではありません。生まれつきだったり何らかの事故だったり病気だったり。しかし、彼らの場合は人間がクローンたちの誕生から終わりまでを全て決めています。つまり人為的です。やろうと思えば、クローン人間だって次の日から教師になったりアイドルになったり世界各地を旅したり、なんでもできます。でも彼らには許されてはいません。敷かれたレールから飛び出してみようと試みる者もいませんし、考えるものもいません。臓器提供をして役目を終えたら死んでいく、当人たちもそれが当たり前という狂気の世界。人間がクローン人間を完全に支配してるだけです。主人公たちは、家畜のような仕組みに疑問を抱くことも教育でコントロールされているのか、ちらりとも思いません。もしかすると、生殖機能すら制限できる技術があるわけですから、"製造"段階で感情すらも制御されているのかもしれません。それを考えると、彼らとしては一生懸命に恋をして、悩み、輝いて生きた人生かもしれませんが、ひどく滑稽で哀れなものにすら感じます。例えるなら、あらかじめレの音は出ないピアノで、意図的にドの音だけの楽譜を渡されて曲を弾いて、参加賞をもらう感じでしょうか。
たぶん、作者としては限られた人生の中に満足感を見出して死んでいく、というのをやりたかったと思うんですが、作中にはほぼ描かれてないとはいえ、歪んだ社会構造のほうが印象に残りました。なんせ、クローン人間と教師以外はほぼ出てこないので、社会生活を営んでいても彼らは社会的には隔絶されてるし、人間も彼らに興味がないようです。ガラスの壁がそこにはしっかりあるようでした。
また、クローン人間を話すときに欧米では必ず避けられない宗教の問題ですが、これは作者は描こうとしていなかったと思います。なぜかというと、礼拝のシーンがほとんどありません。神さまはいるの?とかそういうセリフもありません。家畜に神はいないということなのか、それとも家畜に神を与えると、どこからどこまでがヒトであるのか論議を醸すから、最初から信仰させないんでしょうか。
ただ、個人的には18年もかけて子どもを育成するよりは、工場みたいなところで生産or育成したり、万能修復細胞だのを開発したほうがコストが遥かに安いだろうなと思います。
これらを考えると、アビスのレプリカたちはしっかり自我を持っていたし、人間の社会がレプリカの存在を認めなくても、自分たちは自分たちで稚拙なりとも生きていこうとしていました。全然違うなあ……。まあ、アビスのレプリカたちは一時的な代用品でしかなさそうでしたし、寿命も遥かに短そうですし、人間が彼らを利用するメリットがないからこそなんでしょうけれども。
ジェイドはルークがどれくらい生きられるのかは予測がついたかもしれないのですが、黙ってるのに気付いて、本人が知らないのは良くないと 葛藤するガイの話が読みたいです、安西先生。
レプリカって人間と同じくらいの寿命とは確かどこにもなかったはず……ジェイドもレプリカは脆いって言ってたし!